京都・八坂神社、夏の風物詩である祇園祭りの奥にある牛頭天王の謎を紐解く歴史旅
記事公開日:2016/09/09
京都・東山の祇園に鎮座する八坂神社は、全国約2,000の八坂神社や素戔嗚尊を祀る社の総本社です。そして京都の夏の風物詩である祇園祭りでも知られる八坂神社は、古くから祇園精舎の守護神「牛頭天王」を祀ると言われています。今回はこの八坂神社の境内を巡りながら、祇園信仰の謎を紐解いてみる歴史旅へとご案内します。
※写真は四条通りの東の突き当たりに建つ、八坂神社の重要文化財「西楼門」
謎に包まれている八坂神社の祭神「牛頭天王」
「八坂神社」は京都、東山区の四条通の東の突き当たりに鎮座しています。周辺には風情溢れる祇園の街並みが広がり、円山公園や建仁寺、知恩院、清水寺など、京都を代表する有名観光スポットが多数散在しています。
神社の社伝によれば、八坂神社は斉明天皇2年(656年)、高句麗から渡来した伊利之使主(いりしおみ)の創建とされます。また、韓半島から渡来した八坂造の祖が祀ったとも伝わっています。そして平安時代の中期には祇園の産土神として信仰されるようになり、時の朝廷からも篤い崇敬を受けてきました。
古くは祇園精舎の守護神、「牛頭天王(ごずてんのう)」が祀られ、神仏習合の「感神院祇園社」とされていましたが、明治時代の神仏分離令によって、素戔嗚尊(スサノオ)を主祭神とした「八坂神社」に改められています。
この牛頭天王は起源が不詳とされる習合神であり、釈迦の生誕地に因む祇園精舎の守護神とされ、その名は韓半島の牛頭山に由来するとも言われます。また、現在の祇園祭りは平安時代の前期に、京の都で疫病が流行した際に行われた御霊会が祭礼となったものであり、牛頭天王も素戔嗚尊も、疫病を司る神とされたために二神は習合したと言われます。
※写真は八坂神社の重要文化財である本殿。祇園造りと言われます
牛頭天王は身長が七尺五寸(約227cm)もあり、三尺の牛頭に三尺の角があったとされています。他方、古代中国の神話には戦の神である兵主神、「蚩尤(しゆう)」の存在が挙げられ、蚩尤も人の身体に牛頭と角があったとされています。この蚩尤は天界の帝王である黄帝と戦って敗れ、蚩尤に味方した戦の民、九黎族は南方に逃れて三苗となり、韓半島の伝説では蚩尤の一族が山東半島から新羅の牛頭山に渡ったとも言います。
また、日本書紀の中では素盞嗚尊が韓半島の牛頭山に降り、後に列島へと渡っています。牛頭天王の名は牛頭山に由来するとされ、その牛頭天王と中国神話の神、蚩尤(しゆう)、そして日本神話の神である素盞嗚尊の三神は、韓半島と新羅の牛頭山で存在が重なります。この牛頭天王信仰の背景に見えるものは、太古の大陸において漢民族に駆逐された民が、韓半島を経てから列島に到った痕跡なのかもしれません。
※写真は八坂神社の舞殿
八坂神社において牛頭天王を祭祀した、山城の渡来系氏族の存在とは?
日本書紀の中には「都怒我阿羅斯等」という存在もあります。この「都怒我阿羅斯等(つぬがあらしと)」とは「角がある人」の音とされ、崇神天皇の時代に額に角が生えた人が船で角鹿(つぬが、敦賀)に来着したとされています。また、古事記の中では「天之日矛(天日槍)」ともされ、韓半島の産鉄民や金属精錬集団が祀る神でした。
そして大分県の宇佐神宮の祭祀に関わった辛嶋氏は、素盞嗚尊を祖とし、都怒我阿羅斯等などの新羅神を奉戴したとされ、その辛嶋氏が秦氏と同族とも言われます。秦氏は応神天皇の時代に帰化した韓半島の氏族であり、秦の始皇帝に纏わるともされています。この秦氏は山背国太秦などを本拠として繁栄し、伏見大社で稲荷神の祭祀を行なっています。八坂神社に残されている牛頭天王の信仰も、この秦氏に纏わるものなのでしょうか。山城の辺りは多くの渡来系氏族が跋扈した地であったようで、渡来の民たちの信仰が幾度にもわたって持ち込まれ、その後の歴史で変質しているように思われます。
※写真は町並みに建つ「八坂の塔」。八坂神社から清水寺へ向う辺りは京都らしい情景が残る場所
今回ご紹介した京都・祇園周辺の旅行スポット
名称:八坂神社
住所:京都府京都市東山区祇園町北側625
アクセス:京阪電鉄「祇園四条駅」徒歩約5分
駐車場:周辺には駐車場あり(有料)
参考リンク:八坂神社公式サイト
あらき 獏(ばく)
情報誌の編集者を経て、現在は文化、歴史系フリーライター。歴史を側面から探ることで、歴史の謎解きを楽しんでいます。
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