完璧な美の象徴・金閣寺、観光の定番スポットを三島由紀夫作品の目線で体感する旅
記事公開日:2016/02/18
京都の定番観光地の1つ、「金閣寺」は日本美を代表する寺院建築として知られ、ユネスコの世界遺産にも登録されています。そして作家・三島由紀夫は実際の放火事件をモデルに小説「金閣寺」を書き、作品の中で金閣寺を「地上最高の美」として捉え、その完璧な美しさという観念に追いつめられる人間像を描きました。今回はそんな三島由紀夫の作品の目線で金閣寺に対峙してみる旅へとご案内します。
※写真は鏡湖池と金閣
金閣は極楽浄土を表現した、日本美を代表する寺院建築
以下は三島由紀夫の「金閣寺」からの一文です。「金閣は私の前にその全容をあらわした。私は鏡湖池のこちら側に立っており、金閣は池を隔てて、傾きかける日にその正面をさらしていた。漱清(そうせい)は左方のむこうに半ば隠れていた。池には金閣の精緻な投影があり、その投影のほうが一層完全に見えた。」
「金閣寺」は京都市北区に位置しますが、ここは京都市上京区にある相国寺の塔頭寺院となっています。正式には鹿苑寺(ろくおんじ)であり、舎利殿である「金閣」が有名なため、一般的には金閣寺と呼ばれます。金閣は内外に金箔を貼った三層の楼閣建築で、室町時代の応永5年(1398年)頃に建てられたと言われます。室町幕府の3代将軍、足利義満の山荘をその没後に寺院としたもので、金閣を中心とした庭園、建築は極楽浄土を表現したと言われ、室町時代前期の北山文化を象徴するとされます。
三島由紀夫の小説「金閣寺」は、実際の放火事件をモデルにした文学作品
「鹿苑寺総門の前に立ったとき、私の胸はときめいた。これからこの世で一等美しいものが見られるのだ。日は傾きかけ、山々は霞に包まれていた。」(三島由紀夫「金閣寺」より)
金閣は昭和25年(1950年)、学僧による放火のために焼失してしまいます。しかし、昭和30年(1955年)に再建がなされ、平成6年(1994年)にはユネスコの世界遺産「古都京都の文化財」に登録されています。作家・三島由紀夫は、学僧による放火事件をモデルに長編小説「金閣寺」を書きます。これは実際の事件に三島独自の金閣に対する観念、人物造型を加えて構築し、文学作品として完成させたもの。この小説「金閣寺」は三島の代表作というだけでなく、近代日本文学を代表する傑作の1つともされます。小説では金閣の美しさに憑りつかれた学僧が、寺に放火を行うまでの経緯が綴られます。戦中戦後の時代を背景に、吃音症の宿命を背負った学僧の人生に、立ちはだかる金閣の美しさへの呪詛や執着が、精緻な文体で綴られます。
三島由紀夫が完璧な美の象徴として捉えた「金閣の存在感」
「やがて金閣は空襲の火に焼き亡ぼされるかもしれぬ。このまま行けば、金閣が灰になることは確実なのだ。こういう考えが私の裡(うち)に生れてから、金閣は再びその悲劇的な美しさを増した。」(三島由紀夫「金閣寺」より)
小説では、学僧は僧侶である父親から金閣はこの世で最も美しいものと聞かされて育ち、彼は金閣を完璧な美の象徴として思い描きます。やがて彼は金閣寺で修行生活を始めますが、彼にとって実際の金閣は思い描いた金閣ほどに美しくはありませんでした。しかし戦争が激化し、やがて金閣も自身も空襲で灰になるという思いが生まれ、金閣は悲劇的な美しさを増してゆきます。そして彼は金閣の幻影と心中するという思いへと至ります。
三島由紀夫はこの小説の中で、放火行為の意味を模索し、犯人の行為を完璧な美に対する嫉妬、反感、そして、滅びゆくものへの同情などと見なしました。三島由紀夫が金閣を地上最高の美として捉え、金閣の完璧な美しさという観念に追いつめられる人間像を描いたことで、金閣が三島由紀夫に与えた存在感の大きさをも感じさせます。今や定番とも言えるこの観光スポットをそんな目線で捉えながら対峙してみる。時には視点を変え、新鮮な目でこの建物に触れてみれば、そこに潜む新たな「美」に気づく事ができるはずです。
今回ご紹介した京都市北区のスポット
名称:金閣寺
住所:京都府京都市北区金閣寺町1
拝観時間:9:00~17:00
拝観料:大人(高校生以上)400円 小、中学生 300円
アクセス:JR京都駅から市バス「金閣寺道」にて下車、徒歩すぐ
参考リンク:臨済宗相国寺派「金閣寺」の公式サイト
あらき 獏(ばく)
情報誌の編集者を経て、現在は文化、歴史系フリーライター。歴史を側面から探ることで、歴史の謎解きを楽しんでいます。
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