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神話に彩られた火の国・阿蘇、92代に渡って続く大宮司家と阿蘇神社の古代浪漫を知る旅

記事公開日:2016/04/04

太古の火山信仰を伝える「阿蘇神社」。ここには阿蘇神話の神々「阿蘇12神」が祀られ、大宮司である阿蘇大宮司家には92代に亘る系図が残されています。今回は火の山、阿蘇山を崇める太古の自然信仰と、阿蘇古族の存在を知る熊本旅へとご案内します。

阿蘇神社

※写真は阿蘇神社(九州旅ネット フォトギャラリーより転載)

 

阿蘇のカルデラ内に鎮座し、阿蘇神話の神々を祀る阿蘇神社

 

九州の中央に位置し、火の国、九州を象徴する活火山「阿蘇山」。この阿蘇山は外輪山と中央火口丘群からなる二重式火山で、世界有数の広大なカルデラを形成しています。そしてこのカルデラ内に鎮座している「阿蘇神社」は、かつての肥後国の一宮です。ここは全国に約450あると言われる阿蘇社の総本社であり、阿蘇大明神、「健磐龍命(たけいわたつ)」を主神として親族神12柱を祀っています。

 

阿蘇神社の歴史は、健磐龍命の子で初代阿蘇国造の「速瓶玉命(はやみかたま)」が、第7代の孝霊天皇の時代に親神を祀ったことに始まるとされます。そして速瓶玉命の子孫は、阿蘇大宮司を世襲して肥後の一大勢力となり、現在もその大宮司職を務め続け、阿蘇大宮司家には連綿と92代に亘る系図が残されています。

 

日本三大楼門に数えられる阿蘇神社楼門

※写真は日本三大楼門に数えられる阿蘇神社楼門。高さ18mを誇る仏閣様式の二層楼門(九州旅ネット フォトギャラリーより転載)

 

阿蘇の祭祀は噴火にまつわるもの。その原初は火山を崇める太古の信仰にあった

 

阿蘇神社では3つの神殿に阿蘇12神を祀ります。この神殿群は東を向きますが、参道に関しては楼門の前を南北に伸びていて、横参道と呼ばれる不思議な造りになっています。北の鳥居に立てば参道の奥、そして南の鳥居の先には阿蘇の最高峰、高岳を望み、古い信仰においてはこの参道自体に何らかの意味があったとも思わせます。今回ご紹介する阿蘇の信仰とは阿蘇火山にまつわる祭祀であり、その原初は火の山を崇める太古の自然信仰だとされます。現在でも中岳火口は「神霊池」と呼ばれ、火口へ御幣を投げ入れる神事も行われています。

 

「隋書倭国伝」には、倭国の火を噴く山として阿蘇山を紹介する記事があります。その存在は大陸にまで広く知られていました。そして平安期以降、阿蘇の噴火は国難の前兆として忌まれ、朝廷は阿蘇で噴火がある毎に平穏祈願の令を出し、その度、阿蘇神社が権威を上げたとされます。

 

神霊池と呼ばれる阿蘇神社のご神躰、中岳火口

※写真は神霊池と呼ばれる阿蘇神社のご神躰、中岳火口(九州旅ネット フォトギャラリーより転載)

 

伝説に彩られた神々。征服氏族と先住の民の同化が語られる阿蘇神話

 

肥後の古誌、阿蘇神社縁起などでは「阿蘇神話」の存在が語られています。古く、阿蘇には神武天皇の御子、日子八井命(草部吉見命)があったとされ、紀元76年に神武天皇の孫である健磐龍命が下向し、草部吉見命の女(むすめ)、阿蘇都比売命を娶って土着し、阿蘇を開拓します。そこには神話的な伝説に彩られた神々の姿が描かれ、その中で、征服氏族が阿蘇の先住の民と婚姻を通して同化してゆく過程が語られると言われます。

 

阿蘇中央火口丘、根子岳と高岳

※写真は阿蘇中央火口丘、根子岳と高岳。中央火口丘群は阿蘇五岳と呼ばれて涅槃像に擬され、その壮大な姿は天地創造の息吹きを感じさせます。神々の国といわれる阿蘇のパワーの根源が、世界有数の大陥没孔(カルデラ)を持つ巨大な火山であることに改めて気づかされます。(九州旅ネット フォトギャラリーより転載)

 

阿蘇神話の大いなる謎。鯰(なまず)をトーテムとする阿蘇古族の存在

 

阿蘇には大鯰(なまず)の逸話が伝わります。開拓神、健磐龍命の「蹴破り神話」と呼ばれる逸話において、昔、阿蘇は外輪山に囲まれた大きな湖であったとされ、健磐龍命は湖水を流して田畑を拓くため、満身の力で外輪山を蹴破ります。そして湖の水は流れ出しましたが、大鯰(なまず)が横たわり水をせき止めます。それに対して健磐龍命はこの大鯰を退治し、湖の水を流します。

 

この大鯰の霊は、阿蘇の北宮と呼ばれる「国造神社」の鯰宮に祀られます。そして、国造神社では鯰を眷属とします。阿蘇の手野に鎮座しているこの国造神社は、健磐龍命の子、速瓶玉命と妃の雨宮媛命を祀りますが、古くは、阿蘇神社の元宮であり、本来は阿蘇の神々の母神とも呼ばれる「蒲池媛(かまちひめ)」を祀ると伝わります。この蒲池媛とは八代海、宇城の地より阿蘇に入り、阿蘇の神に嫁いだとされる媛神です。

 

この大鯰の逸話は中央から派遣された氏族に、鯰をトーテムとする先住の民が征服されるという構図を示しているとも言われ、阿蘇の古い民が鯰をトーテムしていたと所以だとも言われます。

 

また、阿蘇の故神、草部吉見命(日子八井命)は、阿蘇において草部吉見氏族(山部)という古族を派生させています。阿蘇神社の系譜においては阿蘇権大宮司家、阿蘇祠官家、阿蘇北宮祝家などの社家はすべて草部吉見氏族で、阿蘇12神の多くが草部吉見命にまつわる神でした。

 

そして阿蘇の火祭りとして知られる「火振り神事」は、草部吉見命の婚姻を祝うものであり、四季折々の阿蘇の農耕神事は草部吉見系の宮川一族の祭りとされます。これらに関しては建磐龍命を主祭神としながらも、草部吉見命に由来する祭祀が主体になっているという不自然な構図が指摘されます。鯰をトーテムとする阿蘇の古族、そして草部吉見氏族や阿蘇の母神、蒲池媛の存在は古代の阿蘇の大いなる謎とされています。実はこの阿蘇の大地は古代ロマンが溢れる神話の国なのです。


※本記事公開後の2016年4月16日、熊本県内で発生した大地震の影響で、残念ながら阿蘇神社の楼門や社殿に関しても大きな被害が出ております。地震の影響で多大な苦労を強いられている現地の皆さまをにお見舞い申し上げるとともに、今後の復興、復旧が叶う事をお祈り申し上げます。

 

今回ご紹介した熊本・阿蘇旅のスポット

 

名称:阿蘇神社
住所:熊本県阿蘇市一の宮町宮地3083-1
アクセス:JR豊肥本線「宮地駅」徒歩約15分
駐車場:社頭駐車場あり

名称:国造神社
住所:熊本県阿蘇市一の宮町手野2280
アクセス:JR豊肥本線「宮地駅」車、タクシーで約20分
駐車場:社頭駐車場あり

 

あらき 獏(ばく)あらき 獏(ばく)

情報誌の編集者を経て、現在は文化、歴史系フリーライター。歴史を側面から探ることで、歴史の謎解きを楽しんでいます。

 

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