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久留米・高良大社、九州を代表する火の祭祀の奥に見える高良玉垂神の謎を知る福岡旅

記事公開日:2016/02/19

「高良大社(こうらたいしゃ)」は福岡県久留米市の高良山に鎮座する筑後国の一宮。その信仰は筑後はもとより、有明海一円に広がっています。この社の祭神、高良玉垂命は記紀に載せられない隠された神として、その正体は不明ともされています。今回はこの高良大社を参拝し、高良玉垂神の謎に触れるディープな福岡旅へとご案内します。

高良大社

※写真は高良大社。久留米藩第3代藩主・有馬頼利の寄進による社殿(重文)は、神社建築としては九州最大とされます。

 

高良大社の祭神論争は、筑後の古代史で最大の謎

 

「高良大社(こうらたいしゃ)」は、福岡県久留米市の高良山中腹に鎮座している式内社(名神大社)であり、筑後国の一宮。この地は古代より「筑紫の国魂」と仰がれました。そしてこの社に関しては祭神論争が有名です。祭神となっている高良玉垂命(こうらたまたれのみこと)に関しては、武内宿禰説、藤大臣説、彦火火出見尊説、水沼祖神説、景行天皇説、物部祖神説、饒速日命説、香春同神説、新羅神説、高麗神説などなど、非常に多くの説が唱えられ、筑後における古代史の最大の謎とされています。

 

山頂域にある奥宮が武内宿禰の墓所とされ、筑前などの分霊社の多くが武内宿禰を祭神とし、明治期までは武内宿禰説が主流であったとも言われます。しかしそれらは江戸期に有馬藩が高良玉垂命を武内宿禰に特定したためともされています。この地の高良玉垂神は記紀(古事記と日本書紀の総称)に載せられない隠された神とされ、朝廷から正一位を授かった神であるにも関わらず、未だにその正体は不明とされています。

 

高良大社の鳥居

 

高良玉垂宮の元宮、大善寺の玉垂神に重なる阿蘇の母神、蒲池比咩の謎

 

久留米市域の南、三瀦(みずま)の総社「大善寺玉垂宮」は、同じく玉垂神を祀り、高良玉垂宮の元宮ともされています。また、この社はこの地の古代氏族、水沼氏(水間、みぬま)が、始祖を玉垂神としてこの宮に祀ったとも伝わっています。この玉垂神に関しては筑後国神名帳に「玉垂媛神」との記載があり、大善寺では玉垂神は女神であるともされています。禊(みそぎ)の介添えの巫女は水沼(みぬま)であり、水の女神は水沼女とされます。そしてこの水沼氏は禊の巫女を出す祭祀の氏族でした。また、水沼が三瀦(みずま)へと変化していくのです。

 

加えて筑後の名族とされる蒲池氏に関しては、祖蒲池と呼ばれる古族が阿蘇の「蒲池比咩(かまちひめ)」を祖とすると伝わります。そしてこの古族が水沼氏族と重なるのです。阿蘇の蒲池比咩とは、阿蘇祖族の草部吉見氏族が奉祭する阿蘇の母神と呼ばれる女神。阿蘇神社の元宮ともされる阿蘇北宮、国造神社に祀られています。そして玉垂神の名は潮干珠(玉)、潮満珠に纏わるもの。火(肥)国の伝承の中では、古くは蒲池比咩が潮干珠、潮満珠を用いて潮の満ち引きを司る八代海の女神でした。

 

大善寺玉垂宮

※写真は大善寺玉垂宮

 

祭祀氏族・日下部氏を通して繋がる、中南九州と高良の神祇

 

後の時代になってからは、水沼氏は「日下部(くさかべ)氏」を称します。阿蘇の祖族である草部吉見(くさかべよしみ)が、やはり日下部氏族でした。そして高良玉垂宮の神職には、玉垂神の裔とされる日下部氏(草壁、稲員)があり、高良山前衛を吉見の峰と呼ぶことで、高良に蒲池比咩の祭祀氏族、阿蘇の草部吉見の存在を伺わせます。

 

この日下部氏族には多くの系譜がありますが、日向、阿蘇、日田、高良など、九州の古い日下部氏族は祭祀の氏族とされ、もともとは中南九州の狗人に由来するとされます。また、新撰姓氏録という記録の中では、日下部氏族は「阿多御手犬養同祖、火闌降命之後也」と記されています。阿多とは南九州、隼人の中枢です。

 

そして日本書紀では景行天皇の妃である「襲(そ)の武媛」が生んだ、国乳別(くにちわけ)皇子を水沼君の祖とします。襲の武媛とは熊襲の女(むすめ)であると伝わり、熊襲の女と蒲池比咩の存在が重なるのです。太古の蒲池比咩の記憶が「襲の武媛」として蘇ったものなのでしょうか。加えて大善寺玉垂宮の大祝も隈(くま)氏でした。高良玉垂宮の神職にも神代(くましろ)氏という存在があり、隈(くま、熊)とは狗人(熊襲)にまつわるともされます。この地域では、古くから氏族の移動に伴う同化や統合が行われる中で、阿蘇の日下部氏族など、中南九州の狗人の神祇が持ちこまれた様子が見えます。

 

今回ご紹介した大善寺玉垂宮の神事、「鬼夜」は壮大な火祭りです。阿蘇神社の「火振り神事」とともに、九州を代表する火の祭祀とされています。この火の祭祀こそ、火(肥)の氏族の神事を彷彿とさせてくれます。隠された神、高良玉垂神の謎とは、高良に持ちこまれた中南九州の狗人の神祇が、時代の為政者の手によって忌避された。ということの結果なのかもしれません。

 

今回訪れた福岡・久留米旅のスポット

 

名称:高良大社(高良玉垂宮)
住所:福岡県久留米市御井町1
アクセス:JR久留米駅、西鉄久留米駅から西鉄バス「御井町」下車 タクシーで約10分、徒歩約20分
駐車場:社前駐車場あり
参考リンク:高良大社の公式サイト

 

名称:大善寺玉垂宮
住所:福岡県久留米市大善寺町宮本1463-1
アクセス:西鉄天神大牟田線「大善寺」徒歩約5分
駐車場:社前駐車場あり

 

あらき 獏(ばく)あらき 獏(ばく)

情報誌の編集者を経て、現在は文化、歴史系フリーライター。歴史を側面から探ることで、歴史の謎解きを楽しんでいます。

 

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