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城崎温泉で外湯巡り。悠久の昔から愛される名湯で温泉街のぶらり歩きに浸る旅

記事公開日:2016/08/22

兵庫県の北部・豊岡市には1,400年の歴史を持つ名湯「城崎温泉」があります。ここは日本海の海の幸と良質な温泉、さらには浴衣と下駄で7つの外湯を巡る事ができる風情溢れる温泉地です。また、志賀直哉が「城の崎にて」を残し、文豪として飛躍する転機となった場所としても知られます。

大谿川(おおたにがわ)沿いに並ぶ、城崎温泉の街


但馬地方を南北に流れて日本海へと注ぐ円山川(まるやまがわ)。そしてその支流の大谿川(おおたにがわ)沿いに並ぶ、城崎温泉の街。

 

温泉寺の麓にある「薬師源泉」

 

温泉寺の麓にある「薬師源泉」。湧出温度は81℃で、毎分400ℓもの湯量が供給されます。

 

城崎温泉のあちこちにある「足湯」

 

また、城崎温泉街には徒歩15分程度の距離に、7つの外湯と5ヶ所の足湯があります。

 

古今和歌集にも詠まれた城崎の温泉

 

舒明天皇の時代(629年-641年)に、コウノトリが足の傷を癒した事で発見されたと伝わり、これが外湯「鴻(こう)の湯」の名前の起源となっています。また、城崎温泉を守護する寺である「温泉寺」の由来では、道智上人が養老4年(720年)に「まんだら湯」を湧き出させたとされています。そして平安時代の古今和歌集、藤原兼輔の詞書には「但馬の国の湯へまかりけるとき、ふたみのうらにとまりて」という箇所があり、悠久の昔から都の公家が訪れる名湯であったとも言われています。

 

温泉街を流れる、風情ある大谿川(おおたにがわ)

 

大谿川(おおたにがわ)の両側には温泉街が並びます。川面に映る柳の姿は、情緒ある懐かしい日本の原風景として、訪れる観光客の人気を集めています。

 

志賀直哉の「城の崎にて」は白樺派の代表作

 

大正2年(1913年)8月、小説家の志賀直哉は東京の電車事故で大怪我を負います。そしてその養生のために城崎温泉に3週間滞在し、その間の出来事を題材にして後の「城の崎にて」を執筆するのです。

 

志賀直哉が城崎で過ごした宿「三木屋」

※写真は志賀直哉が城崎で過ごした宿「三木屋」。現在も宿泊ができる登録有形文化財の旅館です

 

城崎での出来事が、志賀直哉に大きな転機をもたらす

 

直哉はまだ傷が癒えきらない滞在中に、蜂、ネズミ、イモリなどの小動物の生死に遭遇します。そのことは死に直面した自分の意識にも投影され、生と死にはそれほどの差がなく、自分を恐怖させないと感じる。それは死に対する親しみを覚えるほどの心境の変化をもたらします。

 

そして直哉はその心象を書きたいという衝動に駆られますが、この城崎滞在中には一切執筆をしていません。それは生と死に対する心理を「心境小説」にまで昇華させる時間が必要で、そのために他の作品の筆を全て止めてしまいました。それから3年半という長い醸成の期間を経て、大正6年5月に「城の崎にて」を書き上げます。

 

城崎文芸館の前にある志賀直哉の文学碑

※写真は城崎文芸館の前にある志賀直哉の文学碑

 

その後の志賀直哉は「第二期」と言われる充実期を迎え、大正10年に心境小説の頂点と言われる「暗夜行路」を執筆しています。

 

城崎温泉の魅力は何といっても外湯巡り

 

夜の美しい温泉街

 

城崎温泉では、夕暮れになると浴衣姿に下駄の音が聞こえてきます。浴衣が正装と言われる城崎の外湯巡りでは、昔懐かしい郷愁を感じるひと時が過ごせます。

 

温泉街全体が1つの旅館。心地よい雰囲気が訪れる温泉客を包み込む

 

外湯まわりに便利な「ゆめぱ」パス(ほとんどの旅館で提供され無料で入り放題)と、各外湯など10ヶ所で自由に使え、記念撮影にも映えるお洒落な「みんなの傘」。そして浴衣の着付けや着くずれ直しなど、困った時に便利な30ヶ所の「ゆかたご意見番」などなど、温泉街全体を「1つの旅館」に例えて、ぶらり歩きがしやすい工夫もなされていました。

 

温泉街をぶらり歩きしながら、いくつかの湯を廻ってみました

 

大きな洞窟風呂が人気の「一の湯」

 

「一の湯」は江戸時代の医者・香川修徳が、著書「楽選」で天下一の泉質と絶賛したことから名付けられています。建物は桃山様式の歌舞伎座にも似た重厚な造りで、大きな洞窟風呂が人気です。

 

水面に柳が映る大谿川

 

湯で火照った体には、水面に柳が映る大谿川の散策が心地よいです。

 

由緒ある「御所の湯」

 

そして火伏防災・良縁成就、美人の湯と言われる「御所の湯」へ。南北朝時代の史書「増鏡」には、文永4年(1267年)に後堀河天皇の准母・邦子内親王(安嘉門院)が入湯したとされ、これが「御所の湯」の由来とされています。ここは京都御所を思わせる唐破風屋根の造りで、志賀直哉の「暗夜行路」の一節にも登場します。

 

外湯巡りの途中で楽しい寄り道。昔懐かしい「遊技場」で遊んでみました

 

懐かしい射的の光景

 

命中した数によって、人形や湯飲みなどの景品が貰える「射的」。小銭で遊べてしまいますが、夢中になるとつい熱量が上がってしまいます。

 

道智上人の「まんだら湯」

 

そして次は道智上人の「まんだら湯」へ。商売繁盛・五穀豊穣・一生一願を祈りながら入ります。養老元年(717年)に道智上人の曼陀羅一千日祈願によって湧出したことで、「まんだら湯」と言われたという由緒が記されていました。

 

城崎にはこの他にも、城崎温泉駅に隣接した「さとの湯」、地蔵尊から湧いたという「地蔵湯」、さらに柳の下から湧いたという「柳湯」やコウノトリの湯「鴻(こう)の湯」があり、それぞれに個性があって巡っていても飽きません。

 

近年は海外から城崎温泉を訪れる人も増えている

 

近年は海外からの観光客が3.1万人(2015年)と、4年前に比べて30倍近くにも急増しているそうです。その裏には積極的な観光客誘致の活動がありました。2013年には「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で、「寄り道をして訪れるべき場所」という部分で二つ星に選ばれています。また、英語ガイドブック「ロンリープラネット」でも、「Best Onsen Town」と紹介され、海外での知名度も高まっています。

 

城崎温泉のある兵庫県豊岡市では、観光地経営組織(DMO)が旅行会社などとのアライアンスで、「着地型ツアー」で独自の強みを活かす活動を継続しています。日本らしい滞在のスタイルが魅力となり、インバウンドブームの中で外国人にも注目されるスポットとなっています。

 

多くの人が訪れる「御所の湯」

 

「浴衣が似合う温泉地2015」(旅行新聞新社)でも、城崎温泉は第1位に選ばれたのだそうです。

 

風情ある城崎温泉を歩く

 

温泉街の中には島崎藤村、有島武郎など、24基もの文学碑があります。春夏秋冬それぞれで違う魅力を持ち、夏は海水浴に但馬牛、そして冬はスキーに松葉ガニなど、城崎はとても魅力の多い場所です。今回は久しぶりの訪問でしたが、この街の懐かしい風情に気持ちも心も洗われました。これからも昔ながらの情緒を保った温泉街として、ぜひ未来に残していきたい場所だと思います。

 

今回訪れた兵庫県豊岡市のスポット

 

名称:城崎温泉
住所:兵庫県豊岡市城崎町
アクセス:JR山陰本線「城崎温泉駅」下車

 

播磨翁播磨翁

兵庫県の播磨国に在住。ワクワク出来る歴史旅をご紹介できれば幸いです。個人的には謎がありそうなディープな歴史が好きです。

 

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