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220年の伝統を経て生まれ変わる播州織、偶然の出会いから始まった一軒の工房

記事公開日:2016/05/10

播州織の生産地として知られる兵庫県西脇市。江戸時代から220年に渡って続く伝統の織物は、21世紀の今、新たな発想で生まれ変わろうとしています。今回は播州織の可能性に魅せられ、この地へ移住したという一人の播州織作家の工房を訪ね、試行錯誤しながら新しい播州織の開発に挑戦する様子をご紹介していきたいと思います。

播州織工房館


江戸時代中期から続く「播州織」の歴史

 

江戸時代中期に京都西陣の織物技術が播州地域に伝わり、以前から栽培されていた綿花を原材料に織物業が広がりました。加古川流域の豊富な水量と、染色に適した上質な軟水などの水資源に恵まれ、明治時代の末には「播州織」と呼ばれる先染織物の特産地となります。そしてその後、海外販路の拡大によって東南アジアから欧米への輸出が飛躍的に伸び、播州織は絶頂期を迎えました。

 

折機の様子

 

低迷の時代を経て、播州織にも新たな取り組みが始まった

 

昭和40年代以降は低価格の海外製品に押され、播州織は次第に低迷し、厳しい事業環境になっていったものの、今、兵庫県の西脇を中心に次世代へと繋がる新たな取り組みが始まっています。

 

伝統の染色技術とジャパンクオリティを強みに、ニーズの変化に答える多品種・少量・短納期を実現する機動性、そして訴求力の強い新たなデザインを実現する新織技法などを開発し、「播州織」の新たなブランド戦略を展開しています。

 

西脇市の工房「tamaki niime」

 

今回はこの地の播州織に新たな息吹をもたらして注目されている一軒の工房、「tamaki niime」を訪れてみました。ここは播州織の可能性に魅せられ、西脇へと移り住んだという播州織作家、「玉木新雌」(たまきにいめ)さんの店舗と織物工房です。

 

玉木さんと播州織の運命的な出会い

 

今回ご紹介する播州織作家の玉木新雌さんは、福井県の洋装店に生まれ、大学で生活環境学を学び、専門学校でファッションブランディングなどを勉強。その後は大阪の繊維専門会社でパタンナー(型紙)として服飾の技術を磨き、現在はデザイナーとして独立して活動されています。

 

「着心地の良い素材」を使用して服を作りたいという想いで、玉木さんが各地を巡った先でようやく出会ったのが播州織でした。そして玉木さんは展示会の会場で、後に播州織の師匠となる職人さんと出会います。当時は展示品を見ながら何気なく職人さんへ要望を伝えたのだそうですが、その職人さんはわずか一週間で形にしてくれたのだそうです。この時の経験を通じて、先染播州織の可能性の広さと、それを実現できる職人技術に魅了されたのだそうです。

 

色鮮やかな織物たち

 

播州織は、先に糸を染めてから織る「先染織物」

 

「後染め」というのは、生地を織ってから染め上げる方法で、プリントで柄を入れたりします。この方法だと安くて大量に織物を作れますが、後染めなので色彩が単調になりがち。それに対して「先染め」は、糸の段階で色染めを行なってから織り上げる方法です。

 

この方法であれば経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の織り方と色糸の組み合わせで、織全体の表情が変わり、色彩や柄が豊富で深みも出ると言われます。組み合わせを増やせば生産工程が多くなるため、大量生産には不向きとされますが、糸を染色しているので色落ちも少ないというメリットがあるのです。

 

偶然から生まれた柔らかすぎる素材

 

思わぬ偶然から誕生したという「柔らかすぎる素材」

 

播州織の幅広い風合いの可能性の中で、さらに心地よい生地を作ろうと織り方の試行錯誤を繰り返していた玉木さん。そしてある時、柔らかすぎて縫えない生地が偶然できあがってしまいます。この時は失敗したと思ったのだそうですが、ふと何気なく首に生地を巻いてみると、その優しいふんわり感が心地よく、それが現在のオリジナルショールの発想へと繋がった瞬間だったのだそうです。

 

西脇へ移り住む事を決意し、工房を開いて自分で織り始める

 

柔らかなショールたち

 

玉木さんは自分自身でさらに探求を深めようと考え、自らの拠点を西脇市へと移し、古い織機を譲り受けて工房までも作ってしまったのだそうです。そして様々な糸で織り方を試し、限界まで織機のスピードを下げてゆっくりと織ることで、まるで手織のようにふっくらとした、柔らかいものができあがったのだそうです。これは織機のスピードを速くしていかに製造効率を上げるかという、「モノ作り」の常識を覆す発想でした。

 

様々な播州織が並ぶ

 

"Only one shawl"という想いを込めたコンセプト

 

分業制の大量生産とは反対の方向となる、多品種・少量を基本にしたモノ作りでは、染糸の種類や織の速度などの組み合わせによって、同じ生地で作っても1つ1つが違った仕上がりとなります。しかし、それはそれで作品にも個性があった方が良いだろうという考えも込めていて、それが「自分だけのモノ」という使う人側の気持ちに繋がるコンセプトにもなっています。 

 

カラフルなショールたち

 

原材料となる綿

 

綿(コットン)までも「自主栽培」というこだわりぶり

 

織物の原材料となる綿は大半が外国産であり、その産地によっても特性があるのだそうです。玉木さんはこの綿の種類によってもどんな特性の糸ができるのか確かめたくなり、ついに自分自身で綿作りにも取り掛かったのだそうです。雑草地を掘り起こし、草刈りを行なってから耕すというところから始めたのだそうです。綿自体はまだ少量の収穫ですが、これからさらに増やしていくことで、無農薬栽培のオリジナルコットンを素材として使っていきたいのだそうです。

 

西脇市の店舗

 

西脇市の店舗が唯一の直営店

 

笑顔が素敵なスタッフさん

 

今回訪問した日、運悪く店舗は閉まっていたのですが、お願いしたところ快く店を開けて、店内を見せてくれました。お話した店のスタッフさんも地元西脇育ちの方で、播州織に囲まれて育ち、実に明るく楽しそうに話をして頂けました。

 

染色された美しい糸

 

直営店に併設された工房では、美しく染色された糸たちが自らの出番を待っています

 

工房で稼動している織機

 

工房で稼動している織機の様子。ここではお客様も作っている現場を見学できるのだそうです

 

天日干しされた織物

 

帰り際にスタッフさんから、「今度、西脇の「日本へそ公園」の近くに移転する予定なんです。今度はもう少し広くなって、播州織のギザギザ屋根の古い工場(こうば)もある場所なんですよ」と教えてくれました。

 

ちなみに玉木さんの工房の「tamaki niime in japan」というブランドマークは、「日本の中心」を意識しているのだそうです。135度の「経系(たていと)」と35度の「緯糸(よこいと)」が交わる日本の中心の地から、世界へと発信する先染めの播州織。いつの日かこの播州織が世界の中心になる事を期待したいですね。

 

今回ご紹介した兵庫・西脇市のスポット

 

名称:播州織工房館
住所:兵庫県西脇市西脇452-1
アクセス:JR加古川線「西脇市駅」より神姫バス「東本町」下車1分

 

名称:tamaki niime weaving room & stock room
住所:兵庫県西脇市上野334
アクセス:JR加古川線「西脇市駅」より神姫バス「上野南」下車1分

 

播磨翁播磨翁

兵庫県の播磨国に在住。ワクワク出来る歴史旅をご紹介できれば幸いです。個人的には謎がありそうなディープな歴史が好きです。

 

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