甦った白鷺城、世界遺産・姫路城の四百年の時を感じる旅
日本の100名城の1つであり、その美しさは日本一とも言われる「姫路城」。今や世界文化遺産の1つともなっているこの城は、5年半にも渡る平成の修理を終え、再びその勇姿を間近で見ることができるようになりました。今回は播磨を代表する名城、姫路城を巡る歴史旅をご紹介していきます。
平成27年(2015)3月27日、5年半に渡る「平成の修理」を終え、その雄姿を現した姫路城。素屋根が取り外されて姿が見えてきた時は、「白塗り過ぎ?」という驚きの声が上がりましたが、半年を過ぎて程よい風合いになってきました。
姫路城は赤松貞範が正平元年(1346)に築城し、黒田官兵衛(孝高)が秀吉に城を献上した天正8年(1580)頃には、三層の天守閣が築かれていたと言われます。そして慶長5年(1600)、関が原の戦いで功を上げた池田輝政が姫路城主となり、9年をかけて本格的な大天守を完成させました。
黒田孝高、羽柴秀吉、池田輝政、酒井忠邦など48人もの城主が400年間に渡って姫路城を守り続け、代々の城主が改築を施し、城郭を拡大していきました。国宝8棟、重要文化財74棟。平成5年(1993)には奈良と共に、日本初の世界文化遺産に登録されています。今回の工事で屋根瓦の全面葺替え、漆喰壁の塗替えが行われ、築城時の白鷺城に甦りました。その400年前の姿を求めて、改めてここを訪ねてみました。
左が2009年9月の工事前、右が2015年9月工事後の姫路城です。確かに白いですね。「白鷺城」と名づけられた訳が良く分ります。築城当時の白さを見ることができるのは幸いなことです。注目して頂きたいのは昔に比べてお城がよく見える点です、これは天守閣をすっぽり覆う「素屋根」を設置する際、茂った木々を剪定したためです。遠くからも非常によく見えるようになりました。
姫路駅2階の展望エリアから、大手前通りの先に姫路城が見えています。ゆっくり散策しながら広い並木道歩いていくと楽しいですよ。英文の案内板はさすが観光都市ですね。観光客に優しいボンネットループバスも走っています。
姫路城は攻守に長けた城と言われます。いかに防御し、いかに反撃するかを目的に城郭が造られているため、トリックも満載です。視覚的なミスリードで敵を迷わせ、攻めるスピードを落とさせて時間を稼ぐ、視界の外から想定外の攻撃を仕掛けて戦意を喪失させる。などなど巧妙な仕掛けが待っています。早速想定しながら歩いてみましょう。
入城して最初の門が「菱の門」です。奥に見えるのが「いの門」。お城へのルートです。「菱の門」の左側には坂があり、そこにある「武者溜り」に兵を潜ませ、さらに右側奥にある「るの門」の中に兵が隠れています。前のめりで攻め込んできた敵は、突然左右からの攻撃を受けて動揺します。
そしてなんとか「いの門」から「ろの門」を抜けていくと、正面は行き止まりに見え、正しくは右へ急カーブとなっているので攻めるスピードがまた落ちます。ここはすぐ前に天守閣が見える美しい場所で、時代劇の撮影場所としても有名で、「将軍坂」とも呼ばれています。
続いては「はの門」です。櫓門になっていて、中に兵が隠れて攻撃を仕掛けくるので、十分な注意が必要です。門を抜けて右へカーブすると、道が左右に分かれて見え、広い右側に誘われていくと崖の上に出て勢いで落ちてしまうのです。怖い仕掛けですねえ(今はロープがありますから大丈夫ですが)。
また、うまく左側へ進んでもUターンする方向で天守閣が背になります。アレ?と思っているうちに、次の「にの門」が出現します。ここも櫓門になっていて、上に誰か潜んでいます、櫓門の中は妙に天井が低く、敵のスピードが落ちた隙に上から槍で突く事ができます。なんと怖いことか、もし前を進む仲間がやられていると感じたら、私なら逃げ出してしまいます。
そしてさらに「ほの門」。入り口がなんと狭く低いことか、敵はおしくらまんじゅうの状態になってしまいます。本当に「頭上注意」です。頭をぶつけてしまいます。
さらにその先を真っ直ぐ進むと、天守の後ろ側から大回りをして攻め入る流れになっています。実に巧妙な仕掛けです。敵ではない現代の観光客たちも、このルートを進んで城に入って行きます。
しかしこの迷路は、いったい誰が考えたのでしょうか?姫路城は「不戦の城」でしたが、誰かが敵の心理をシミュレーションし、イメージを膨らませながら設計したはずです。400年の歴史の中で城主は何人も代わっています。恐らくその城主の元で、策士や知恵者たちが仕掛けを作り出し、ブラシュアップしてきたのでしょう。先人たちの知恵と努力には頭が下がります。そんな謎を想いながら、ゆったりと姫路城を歩くのもまた趣向ですね。
そしてようやく天守閣の入り口に辿り着きました。いくつもの階段がありますが、昭和の大修理の際に階段が追加され、中は一方通行になっています。ちなみに階段の足元には滑り止めが付いています。元々の階段に関しては侵入対策用の蓋があり、滑り止めは付いていません。
階段の勾配は急ですが、多くの城主たちが登った階段です。周囲の国宝の手触りを感じながら、ゆっくりと登っていきましょう。
いよいよ姫路城の天守閣へ
各階にある階段は、それぞれ離れて設置されています。観光客に各フロアを見てもらいたいという配慮ではありません。階段が近いとそこが吹き抜けになってしまい、火を放たれた時に炎の回りが早くなるからです。これも城の生き残りの知恵です。
最上階の天守閣に上がると涼しい風が吹き抜けています。下々を見下ろして城主のような気分に浸りましょう。滅多にない事ですからね。中央にあるのは刑部(おさかべ)神社です。
築城から400年以上経っている姫路城、既に内部も調べ尽したものと思っていましたが、なんと今回の平成の修理で、新たな謎が見つかったそうです。
幻の窓
今回の修理で天守閣の土壁を解体したところ、四隅の計8ヶ所の鴨居と敷居に、引き窓用の溝が発見されました。なぜそこに窓を造らなかったのか?その理由は分かっていませんが、1つには築城前の慶長地震(1596年)で伏見城の天守が損壊したという記録があり、地震対策として急遽壁にしたものか?2つ目には慶長17年の大きな台風で、伊賀上野城の天守が倒壊したことを知り、補強のために壁にしたか?などの見方があります。補強対策ならば仕方もありませんが、もしすべてを窓にすると今よりも8つも窓が増え、さぞかし見晴らしも良かったでしょうね。
天守閣から降りると「備前丸」に出ます。ここから見上げる石垣の高さには驚きます。天守閣は一見すると5階建てに見えますが、4階より上に5階と6階のフロアがあります。地下1階、地上6階で総重量は5,700トンと言われています。その重量感と威厳には圧倒されてしまいますね。
天守閣の2階と最上階に、中央に膨らみ(むくみ)のある屋根が見えます。これを軒唐破風(のきからはふ)と言います。
幻の紋
今回、天守最上階の北側(裏側)に、誰の家紋か分らない紋が発見されたそうです。裏側で見えにくい場所ですが、「いまさら」感がありますね。昭和の大修理でも記録は残っているのですが、「誰の紋」かが分らずに順送りされたようです(この場所では見えません)。
何も無い紋
さらに、南側(こちら側)2層目の軒唐破風の下には、なんと紋が入ってない丸だけのものがあり、これもまた不思議で理由が分からないそうです。軒唐破風の直ぐ下、蟇股(かえるまた・カエルが座っているような形)の中に見えます。見上げてみましょう。
その後は備前門から「二の丸」の「お菊井戸」を通り、「菱の門」まで戻って行きます。他に「西の丸」には千姫ゆかりの「化粧櫓」などがあります。
今回の姫路城公開後、スマホで当時の様子を手軽に見られるようになりました。「姫路城大発見アプリ」(無料)を使い、城内のARマークのある案内板でかざすと動画などが出てきます。一度見るとコレクションに残り、後でゆっくりと見ることもできますよ。
実際に「姫路城大発見アプリ」を試してみました。なかなか面白いです。姫路城外でも利用できるようで事前に予習ができます。
参考リンク:ARマーカー(AR案内板)姫路城大発見!アプリ
http://castle-himeji.com/breakthrough-apps/ar-marker/
また、姫路城へ行く前に予習しておきたいということであれば、「姫路城大入り実況」というホームページもあります。入城の待ち時間や混雑予想、駐車場案内なども便利です。
参考リンク:姫路城大入り実況
http://www.himejicastle.jp/
大手門を出て真っ直ぐと西方向へ行くと、5分ほどで「好古園」に到着します。酒井家時代の姫路侍屋敷跡に作られた、本格的な日本庭園です。今回は食事を兼ねて庭園を散策してみました。
園内に入ると屋敷門の左に白壁に挟まれた小道があります。「るろうに剣心」の緋村剣心はここで「頬に刀傷」が付きます。その重要なシーンはここで撮影されました。この好古園も映画ロケの多い場所です。
好古園の中にある「活水軒」で昼食を頂きます。
見事な日本庭園なので雰囲気は素晴らしいです。こちらのお店でお勧めは?と尋ねてみると、「穴子です」と即答されました。今日は結構歩いたので「冷たいソバと穴子丼のセット」をお願いしてみました。
とても広い庭園です。日本情緒を感じさせる場所で、海外から訪問される方も多いようです。
久しぶりに歩いた姫路城
混雑状況についてボランティアガイドの方に話を伺うと、平日はまだ余裕があるものの、土日はまだまだ人が多いですとのことでした。空いている時でも全部歩くには2時間ほどはかかります。中には勾配のきつい階段もあって疲れるので、テーマを決めて回るのが良いかもしれません。
城の保守修理は細かく実施されています。久しぶりに行くと見学ルートが変わっていることもしばしばあります。訪問するたびに新しい発見のある姫路城です。そういうことも楽しみに、無理なく見学されると満喫できると思います。
名称:姫路城
住所:兵庫県姫路市本町68
開城時間:9:00~16:00(17:00閉門)/夏季は9:00~17:00(18:00閉門)
アクセス:JR姫路駅から徒歩約25分/姫路駅からバスもあり
駐車場:姫路城の近隣に公営の駐車場もあり
参考情報:公式サイトはこちら
播磨翁
兵庫県の播磨国に在住。ワクワク出来る歴史旅をご紹介できれば幸いです。個人的には謎がありそうなディープな歴史が好きです。
姫路城周辺の人気宿ランキング