日本で最も開花が遅い桜、海を渡ってやってきた千島桜の美しさを知る旅
桜吹雪が舞い散る中、卒業証書を手に馴染んだ校舎を巣立っていく。そんなイメージが似合う今の時期ではありますが、実は北海道の場合はちょっと事情が異なります。北海道での桜の開花は早くても4月の下旬頃。さらに北海道の東、最東端の根室市の開花となると平年値で5月18日。1月には桜が開花するという沖縄県と比較すると4ヶ月も遅いのです。今回はそんな北海道の最東端から、「日本で最も開花が遅い桜」を愛でる旅へとご案内します。
千島桜の原木は、北方四島から海を渡ってきた「クナシリザクラ」
北海道・根室で最も有名な桜のスポットとなっている「清隆寺」。この地に咲く「千島桜(ちしまざくら)」は明治2年、かつて日本人が自由に行くことができた北方四島の国後島から、檀家さんが持ち帰って自宅の庭に植えたのが始まりだと言われます。この桜は山に咲く「ミネザクラ」の変種であり、「クナシリザクラ」とも呼ばれました。そして若木が見事な花を咲かせるようになった頃、この清隆寺へと寄贈されたのだそうです。今ではこの木を源流に、「チシマザクラ(千島桜)」として根室市や周辺の町でも植えられています。
桜の木の下で花見は無理。だけど、花の美しさをもっと間近に感じる事はできる
チシマザクラの特徴の1つは、他の桜と比べると高さが非常に低く、3メートルから5メートルほどという点。そのため、よくテレビなどで見かける「桜の木の下にレジャーシートを敷いてお花見」という事ができないのです。しかし一方で、その背の高さ故に小さな子どもでも花びらの枚数を数えたり、花の付き方を観察したり、もっと間近に桜の花を楽しむ事ができるのです。
根室市は北海道の中でも特に気温が低く、夏でも30度を超える日は数えるほど。さらに根室市のある根室半島と原木のある国後島をはじめとした千島列島は、太平洋とオホーツク海を隔てるように延びています。そんな事情から2つの海の間を渡る強風が吹きつけてくることもあります。「背丈を低くして、しっかりと地に根を張る」、北国の厳しい気候を生き抜くために、この桜が身につけた知恵なのかもしれません。
千島桜の花びらは、淡いピンクから白へと移ろっていく
また、チシマザクラは咲き始めの段階では淡いピンク色や紅色で、満開になると白くなります。交雑しやすいため、ピンクが濃いものもあります。この桜は1週間から10日ほどで花が咲き、花びらが散る頃になると一気に葉が生い茂ります。
旧根室測候所の桜が街の標本木。ここから開花宣言が生まれる
1960年から根室の桜の標本木になっているのも千島桜。2010年に根室測候所が無人になった関係で、翌年からは根室市と根室市観光協会が標本木をもとに開花宣言を引き継いでいます。全国でも「チシマザクラ」が標本木になっているのはこの根室市だけで、この標本木に5、6輪以上の花が咲くと、ようやく根室の遅い春が訪れるのです。開花時期の平年値は5月18日、満開日は5月24日となっています。
釧路地方裁判所 根室支部に咲く桜
こちらは家庭裁判所・簡易裁判所前に咲く千島桜。国道に面していて、入口中央に堂々と咲き誇る一本桜の姿は圧巻です。
明治公園に咲く桜たち
そしてこちらは国が創設した牧場跡地を公園にした場所。チシマザクラとエゾヤマザクラが咲き誇ります。変種しやすい特徴から高さや色は様々ですが、敷地内には明治8年から昭和11年にかけて建てられた、国指定の登録有形文化財のサイロが3基並んでいて、レンガ造りのサイロとしては国内最大級です。ここを訪れれば根室開拓の面影に触れる事ができます。
北海道・根室は日本で最も桜の開花が遅い街。日本最東端の納沙布岬方面まで行けば、さらに20日ほど遅れて桜が開花します。この地に千島桜が咲いた後は、春鮭やコンブ漁で浜が賑わい、北海道の三大祭りの1つ「金刀比羅神社例大祭」が開催されます。そして「根室かに祭り」を経て「根室さんま祭り」を終えると、この地は徐々に冬支度へと入っていきます。まるで桜の花のように、一瞬の華やかさを盛大に楽しむこの街。もし今年の桜を見逃してしまったら、5月の終わり頃に「日本一遅い桜」を眺めに来てみるのもお薦めですよ。
今回ご紹介した北海道・根室旅のスポット
名称:清隆寺(せいりゅうじ)
住所:北海道根室市松本町2丁目2
名称:釧路地方裁判所 根室支部
住所:北海道根室市敷島町2丁目3
名称:明治公園
住所:北海道根室市牧の内
Reiko
フォトライター。北海道の東から、心を動かされる風景など、旅したくなる北海道の情報を発信していきます。
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